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さまざまわんこ模様
わんこ愛情物語 文・イラスト/大川愛子さん
※イラストをクリックすると、拡大表示できます
ゆうれい犬さん、こんにちは

 お母ちゃんは、そのわんこが座っている縁側の方へ、ツカツカと歩いていく。さすがお母ちゃん、度胸いいねーと思っていたら、
「なぁ〜んだ、ポーちゃん誰もいないよ」
 と言う。
 あれ? 目の前にいるわんこに、気がついていないのかな?

「お母ちゃん、その子、その目の前の子だよ。さっきから私にテレパシーを送っているのは」
「その子って? 目の前の子って?」
イラスト  お母ちゃんは、キョロキョロしながら周りを見渡している。本当にわかんないんだ。
「お母ちゃん、お母ちゃんには見えないんだね」
「ポーちゃんには姿が見えるの?」
「うん、茶色い柴犬だよ。優しそうで、シッポの所にチョットだけ黒い毛が混ざっているの」
「そう、お母ちゃんには見えないのかも……人間だから。残念だなぁー、わんこのゆうれいなんて初めてだもの、いろんなことを聞いてみたいなぁー」
「どんなこと? 私だったら出来るかもしれないから、聞きたいことを言ってみて」
「そうだね、ポーちゃんだったら同じわんこだから、お話が通じるかもね」
 でも良かった、優しそうな子で。怖いゆうれいだったら、お母ちゃんを置いて逃げちゃうかも!!

「じゃあさっそく、お名前と、どこの子か聞いてくれる?」
「うん」
 私は「大丈夫、仲良しさんになれる」と心の中で自分に言い聞かせ、
「こんにちは。私、ここんちの子でポーちゃん。女の子で6歳になるの。あなたは誰? どこから来たの?」
 と尋ねた。
 ゆうれい犬さんはゆっくりと顔を上げ、一度お母ちゃんを見てから私の方を向き、
「僕の名前はチビ。天国から来たんだ」
 と、静かに口を開いた。

「チビ? そんなに大きいのに? それに天国から来たなんて」
「うん、前のご主人様が、僕を拾った時に付けてくれた名前さ。それに僕は死んでしまったから、今は天国にいるんだ」
「ふぅ〜ん。大きいチビゆうれいさんなんだね。拾われたって、捨て犬だったの?」
「僕はここの近くにある、さくらの里に捨てられていたんだ。まだちっちゃかった僕は、最初は何もわからずダンボール箱の中にいたけど、そのうちにお腹がすいて、お母さんを探しに、箱の中から出たんだ」
「うぅ〜ん。怖かっただろうね。それにあそこの道路は車がいっぱい走っているから、危ないよね」
「そう、ポーちゃんの言うとおり、トコトコ歩いてたら車に跳ねられちゃったんだよ」
「え〜、大丈夫だったの?」
「すごく痛くて、キャイン、キャイン鳴いていたら、たまたま通りかかった人間が助けてくれて、近くの動物病院に連れて行ってくれたんだ。僕の怪我はとてもひどかったから、2週間くらい入院して、その後1ヶ月通院さ。その、病院に連れて行ってくれた人間がご主人様で、ずっと優しく面倒を見てくれたんだ」
イラスト 「良かったね、良い人に助けられて。痛くて辛かったと思うけど」
「うん。元気になった僕は、結局、大好きなご主人様から離れられなくなってしまったんだ。それからはずっと一緒に、お散歩に行ったり、ドライブに行ったりと楽しい日々を過ごしたけど、車は今でも嫌いだね」
「わんこも痛い目にあうと、トラウマになるのかなぁー? でもーぉ、今はゆうれいさんなのに、それでも車が怖いの?」
「もちろん、今はもし轢かれても通り抜けちゃうから平気なんだけど、あの時のことを思い出してしまうから、やっぱり車は見るのもダメなんだ」
 ゆうれい犬さんは、少し痛そうな泣き顔になった。

「そんなもんなんだね。ところで、ゆうれい犬さんはいつ死んじゃったの? また車に跳ねられちゃったの?」
「僕が死んだのは、もう6年も前に病気で。あの日は寒かったなぁー」
 ゆうれい犬さんは、その日を思い出すように、一言ひとこと懐かしそうに話した。

「その日は3月の終わり頃で、もう春だというのにとっても寒くて、伊豆高原では珍しく大雪が降って大変な日だったんだ」
「へぇ〜、そういえば、去年も大雪が降ったんだよ。お庭でお母ちゃんが遊ぼって言ってくれたけど、あんよが冷たくて全然歩けなかった。もう身体中ブルブルで、私、固まっちゃったんだ。でも、このへんはめったに雪なんか降らないから、お母ちゃんは大人なのにいっぱい足跡つけて喜んでいたけど」
「ポーちゃんのお母ちゃんは、陽気でいいね」
 と、微笑んだその顔が少し悲しそうに見えた。

「僕は、その2〜3日前から体調を崩して、歩くのがやっと。ご主人様は動物病院の先生に、僕の命があまり長くないことを聞いていたらしく、ずぅ〜っと傍についていてくれたんだ。そのうち、だんだん息をするのも苦しくなって、それで最後に一言だけ、一言だけでいいからご主人様に『ありがとう』って言いたくて、思いっきり身体を伸ばして声を出そうとした時、ご主人様が先に言ってくれたんだ」
「なんて?」
イラスト 「『チビ、ありがとうな。チビ、もういい、もういいから天国に行って早く楽になれ』って。僕はそれを聞いた時、すごく嬉しかった。僕の気持ちが、ちゃんとご主人様に伝わったんだ。声は出なかったけど、僕の『ありがとう』をわかってくれたんだ……。そして、身体をゆっくりさすってくれるご主人様の目から落ちたあったかい泪が、僕の口の中にポトリと入った時に、身体がスゥ〜っと軽くなったんだ」

「もしかして、その時がゆうれいさんになった時なの?」
「う〜ん、それがよくわからないんだ。死んでしまったのかもしれないけど、僕はそれから1週間くらいは、ご主人様の傍にいられたんだ。身体は庭のお花がいっぱい咲いている所に、埋めてくれたんだけどね」
「ふぅ〜ん、ゆうれいさんになっても、少しだけでも傍にいられるんだね」
「ご主人様は毎日お線香をあげてくれて、僕の大好きなビーフジャーキーも、生きている時より多くくれて美味しかったなぁ〜」
イラスト 「えっ、死んじゃっても美味しいってわかるの?」
「わかるよ。特にご主人様の優しさが加わっているから、よけいに美味しい。お線香は心をやすらかにしてくれるし。生きている時は煙が大嫌いだったのにね」
「ご主人様とお別れするの、辛くなかった? 優しい人と離れるなんて、私、耐えられない。うちのお母ちゃんも優しいけど、もし、私が同じようになったら『天国に行ってもいい』なんて、絶対に言わないと思う。大騒ぎして大変なことになりそう。ね、お母ちゃん」
 ずっとキョトンとしているお母ちゃんに、ゆうれい犬さんのお話を最初から説明し始めると、
「うん、うん、わかる、わかる、その気持ち辛いよねー。そんな時、本当に辛いよねー」
 と泪を流しながら、
「そんで、そんで」
 と聞いてくる。

 ある程度説明が済んで、ゆうれい犬さんに、なぜここに来たのか聞いてみようとした時、鼻をズルズルしながら、
「ポーちゃん、ところでなんでゆうれい犬さんは、ここに出て来たの?」
 と、お母ちゃんの先回りする言葉。
イラスト 「だぁ〜から、今、聞こうとした時なの!!」
 私は、ちょっとむくれてプイ顔になった。
 嫌ですよね、今やろうとした時や話そうとした時、それを先に言われると。お母ちゃんって、意外とそういうことがあるんだから。
 そんなことを、お母ちゃんとコショコショ言い合いしていると、
「いいよなぁー、ポーちゃんは。お母ちゃんと話が出来て、本当の親子のようだね」
 とゆうれい犬さんは笑った。
 私とお話が出来るお母ちゃんも珍しいけど、ゆうれい犬さんとお話が出来る私も変わっているかもしれない。

 まっ、とにかくなぜこの部屋に出てきたか、そして何しに来たのかを聞かなければならない。
「ねえ、ゆうれい犬さん。あなたはなんの目的でここに出てきたの? それも昼間のこの暑い時に。ゆうれいさんて、夜出るんじゃないの?」
「いや、人間のゆうれいと違って、わんこのゆうれいは昼も夜も夏も冬もないんだ。意外と自由に行動出来るんだよ。ただ、生きている人間にメッセージを伝えたくても、やっぱり犬のゆうれいと人間だから、直接言うことが出来ないんだ。それで僕が困っていたら、ゆうれい犬仲間が、ここのホテルにわんこと話が出来る人間がいることを教えてくれて、悪いと思ったけれど、勝手にお邪魔したんだ」
「それが私たち親子のこと?」
「そういうこと。初めは無理だと思ったけど、ポーちゃんとポーちゃんのお母ちゃんをよく観察して、決めたんだ」
「えー、いつ、こっそり覗き見してたの?」
イラスト 「前にポーちゃんとポーちゃんのお母ちゃんが、お泊りにきたフェレットちゃんを紹介されて“にゃんこだ、にゃんこだ”って間違えたまま大喜びしてたでしょ。それがとっても微笑ましくて、きっとこの二人なら大丈夫だと確信したのさ」
「それで、テレパシーが私にビンビン伝わってきたんだ」
「うん、ごめんね。せっかくのお昼寝の時間に」
 ゆうれい犬さんは、本当に済まなそうに頭を下げ、
「ここに来たのは、僕の大切な人を助けてほしいんだ。その人を幸せにする手伝いを、お願いしに来たんだ」
「助ける? 幸せにするお手伝い? その大切な人って誰なの?」
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写真 大川 愛子さん
栃木県出身。生まれたときから大勢のわんことにゃんこに囲まれて、とびきり明るく育つ。1999年に伊豆高原に、優しい夫とわがままをなんでも聞いてくれる姑、そして家族のような動物大好きスタッフ15名と一緒に、ペット同伴専用のプチホテル・サンロードをオープン。
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