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−第2部−「ゆうれい犬さんのお願い」 第1回
恒例、ねぶた祭り
みぃ〜ん、みぃ〜ん、みぃ〜ん、みぃ、みぃ〜ん。
ミィーン、ミィン、ミィン、ミィ、ミィ〜ン。
今年もたくさんのセミさんたちが、ここプチホテル・サンロードのある伊豆高原の森の中でも、夏の訪れを「待ってました」とばかり、大声で報せてくれる。
時々、季節を間違えたのか、独りぼっちで寂しく鳴いているセミさんもいるけれど、ほとんどは私たちわんこが夏バテしそうな時季に、セミとしての存在を「これでもか」とアピールしてくるのだ。
まっ、私、マルチーズのポーちゃんは、クーラーの効いた涼しいお部屋でお昼寝を楽しんでいるのだから、暑さはそれほど気にしないけれど、庭で飛び回ることが大好きな4人の妹たちは、このギラギラ太陽はあまり好きではないようです。
夏といえば、海、プール、花火、かき氷、スイカ割り、盆踊りといろいろありますが、中でも盛り上がるのが怪談話。
でも、なんでゆうれいさんの出番は、夏なんだろう?
浴衣、井戸、月の灯り、柳の下……が、怖い話に似合うからなのでしょうか?
もしも寒い冬のゆうれいさんだったら、浴衣の上にドテラを羽織り、手袋にマフラー、帽子と、まあ、確かにさまにならない気もします。
ところで、この怪談話。人間やネコちゃん、キツネさんやヘビさんといろいろなスターが登場しますが、わんこのゆうれい話はあまり聞いたことがないと思いませんか?
そこで今回は、私たちわんこの、チョット不思議なお話をさせていただきます。
もちろん、お客様の体験やエピソードなども含まれていますが、そんなに怖くはないので安心して読んでくださいね。
それから、私のお母ちゃんは自分は霊感が強いと思っちゃっているから、普通の人には信じられないようなことも出てきますが、あまり気にしないでください。
ちなみに、お父ちゃんもお母ちゃんも、おばあちゃんも、私たちわんこも、家族はみんな無宗教です。
またまた、セミさんの登場です。
ミィ〜ン、ミン、ミン、ミン、ミィ〜ン。
ミィ〜ン、ミン、ミン、ミン、ミィ〜ン。
ジー、ジ、ジ、ジ、ジ、ジー、ジ、ジ、ジ、ジ、ジィー。
今日は一段と、セミの鳴き声がう・る・さ・い。
お客様たちは、このセミの声を聞いても、「いいわね、やっぱり伊豆高原は自然がいっぱいで」と喜んでいる。
毎日聞いている私たちは、苦痛にしか感じないのだけれど……。
夏の陽射しはジリジリジリと、どこででも目玉焼きが出来るぐらい暑い。
お父ちゃんとお母ちゃんは、コンニャクのようにクニャクニャしながら、
「暑くて食欲もないから、お昼ご飯はサッパリと焼肉(?)がいいなぁー」
と、おばあちゃんに頼んでいる……何かヘン。
おばあちゃんも、お母ちゃんのトンチンカンなセリフに慣れてしまったのか、
「わかった、サッパリと焼肉だね。牛肉あったかなぁー、えーと、ピーマン、タマネギ、モヤシと、ニンジンは出してもどうせ食べないからやめて」
と一人でブツブツ言いながら、台所へ向かう。
お母ちゃんはお嫁さんなのに、いつもおばあちゃんを頼りにして、ご飯とか家事はみんなおばあちゃんがやっているの。
しばらくして、どんぶりからお肉が飛び出そうなボリュームたっぷりの焼肉丼と、お吸い物、おばあちゃん自慢のぬか漬けのおしんこ、サラダが食卓の上に並べられた。
お父ちゃんは、
「こんなに食べられないよぉー」
お母ちゃんは、
「あたし少ないのでいいー」
と言いながらも、冷たい麦茶を飲んで、
「いっただきまぁ〜す」
と、元気よくお箸を進めていった。
私たち姉妹は、お母ちゃんたちのご飯が終わってから食事なので、お肉の匂いを「クンクン」と鼻だけで味わいながら待っている。
いつの間にか、ひとつひとつの食器がからっぽになっていく。
「ふぅ〜っ、お腹いっぱい。美味しかったぁー、ごちそうさまでした」
と、お母ちゃんたちは湯飲みに並々と注がれた冷たい麦茶を一気に飲むと、毎日恒例のお楽しみ、お昼寝(ホテルのスタッフには、ねぶた祭りとか言われています)を始めました。
お父ちゃんは、ベッドの上でゴロン。
お母ちゃんは、ベッドの横にお昼寝布団を敷いてゴロン。
おばあちゃんは、自分のお部屋でみぁ〜くんと一緒にゴロン。
そして私たち姉妹は、お父ちゃんとお母ちゃんの周りにゴロン、ゴロン、ゴロン。
狭いお部屋に、人間2人とわんこ7人が横たわっているのですから、ここはチョット広めの犬小屋みたいなものです。
しばらくすると、人間たちの「グァー、グァー、グァー、グーグーグー」という、にぎやかなイビキの合唱が聞こえてくる。
妹たちも、「クゥ〜ン、クゥ〜ン、フニャ、フニャ、フニャ」と、おやつを取られた夢でも見ているのか、犬語で寝言を言っている(わんこも、楽しい夢とか悲しい夢を見るんですよ)。
みんな、本当に気持ちよさそうに眠っている。クーラーつけて、お腹いっぱいになって、セミの声を子守唄代わりにして、幸せそうだなぁー。
誰もいない部屋から
そういう私は、さっきからホテルに漂っている、異様な気配が気になって眠れない。
人間ではなく、何か別の生き物がいるような感じがする。
なんなんだろう? 懐かしいような、そうでないような……。
私は、熟睡しているお母ちゃんの顔を覗き込んでから、そろぉ〜っと犬小屋、あっ違った、お昼寝部屋から出て、気配のする方へと向かった。
「クン、クン、クン。ヒク、ヒク、ヒク」
こっちの方だ。
だんだん近づいていくうちに、手足がブルブル震えてきた。
「えっ、私、怖がっているの……?」
いつも好奇心が強く冒険家の私が、こんなことでビビるなんて……。
「ええい、女は度胸。頑張れ!!」
と自分に言い聞かせ、気配が強い部屋の前に辿り着いた。
「ここだ、ここからきていたんだ」
誰かが、私に向かって何かを伝えようとしている。
でも、ドアが閉まっていて、中に入ることが出来ない。
ノブを回そうと1、2回とジャンプしてみたが、マルチーズの私では届かない。お母ちゃんを呼んできて、ドアを開けてもらうしかない。私は大急ぎでお昼寝部屋へとダッシュ!!
「ワン、ワン、ワン、ワン、ワン、ワン、ワン、ワン、ワン、ワン(お母ちゃん! 起きて!! お母ちゃん早く起きてってば!!!)」
お母ちゃんは私のワンワンコールに、
「ポーちゃん、お願いだからもうちょっと寝かせて」
と言いながら、寝返りをうってお顔を壁の方に向けてしまった。
「ウゥ〜、ワン、ワン、ワン、ワン、ワン、ワン、ワン、ワン、ワン(だめぇ〜、お母ちゃん、大変なんだからこっちに来て)」
と、もっと大きい声で叫ぶと、
「わぁ〜た、わぁ〜たから、ちょっと待ってて」
と身体を半分起こしたまま、ボケーっとしている。
すぐ行動に移らないお母ちゃんをジィーと睨みつけると、
「はいはい、わかりました。なんですか? どこに行けばいいんですか?」
と、少しふてくされながら、私のあとをついてきた。
例の部屋の前まで行き、
「ねぇ、変でしょう。誰かいるでしょう。今の時間、ここには誰もいないはずでしょう?」
と言いながら、私はお母ちゃんを見上げる。お母ちゃんは、
「そうかなぁー、お母ちゃんには何も感じないけど……ネコちゃんか何か入っちゃったんじゃないの? 部屋の中にいるのに気づかなくて、ドアを閉めちゃったんじゃないの? よく、みぁ〜くんがお昼寝していて閉められることがあるじゃない」
と、のんきなことを言っている。
「違うよお母ちゃん、ネコちゃんやわんちゃんなら、どんなに離れていても心臓の音だけは聞こえてくるけど、ここにいる生き物(生きてんのかなぁー)は、何も聞こえてこないよ」
「へぇ〜、じゃ、死んでるってことなのね。わかった、ここにいるのはゆうれいさんなんだよ、ゆうれい。ね、それでいいじゃん。さぁー、お昼寝の続き、続き」
と、お部屋に戻ろうと振り返ったお母ちゃんは、そこでピタッと足を止め、
「えぇ〜〜〜、ゆ、ゆうれい!!」
と、飛び上がるような勢いで、とんでもない大声を出した。
「きゃ〜〜〜ぁ」
私もつられて、声を張り上げてしまった。
二人の心臓は「ドキ、ドキ、ドキ、ドキ(急に脅かさないでくださいよ!!)」と怒っている。
「ポーちゃん、どうする? お母ちゃんがドアを開けるから、ポーちゃん中を見てきてよ」
「やだよ、私だって怖いもん。お母ちゃん大人なんだから、覗いてきてよ」
「でも、ポーちゃんはわんこだから、ゆうれいさんは平気でしょう?」
「そんなぁー、だってぇー」
そんな会話を、どれくらいしたでしょうか。
結局、二人で一緒に入ることになりました。
恐る恐る開いたドアの前には、不思議な生き物が待っていました。
その動物は、身体全体が光で覆われ、とても綺麗だった。
ピンと立っている耳。クルンッと丸まったシッポ。キリッとした目。ひきしまった立派な身体……。
そう、中型の柴犬だった。
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