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ジョン・ブレンド・太郎の行方
それから間もなくして、彼はホテルに来なくなった。
「どうたんだろう?」
先代太郎君の所へも、来ていないという。
独り暮らしの会長さんの所は、いつ行っても留守だった。
近所の人たちも、お散歩の途中で会うたび「どうしたんだろう? まったく姿見ないねー」と心配している。
1週間が過ぎ、2週間が過ぎ、「交通事故にあった」とか「保健所に連れて行かれた」とかいろんな噂が流れてきて、私も、お父ちゃんもお母ちゃんも、みんなも、「死んじゃったのかな」とあきらめていたときである。
豪邸の会長さんから、お母ちゃん宛に電話が入った。
横浜からだという。
お母ちゃんは、会長さんの名前を聞いても誰かわからず「あのー、すいません。いつお泊まりだったでしょか? 横浜のどちら様でしたでしょうか? もう一度お名前を」なんて、首をひねっている。
しばらくして「あ、え〜え〜え〜、その節はどぉーも」と、壁に向かって頭を下げている。
……やっとわかったのだ。
お母ちゃんは、受話器を置いたとたん自信満々に言った。
「わかるわけないよねー。この会長さんとは、道ばたで会ってちょこっと話をしたことはあっても、名前までは聞いてないもの」
(いいえ、聞いてます。忘れただけですよ)。
「それに会長さんは無口で、ジョン・ブレンド・太郎にごはんをあげたとか、独り暮らしだとかしか話してないし」
(それも、違います。もっと貴重な話もいろいろしています)。
会長さんはお散歩中、道ばたで偶然会ったとき、おしゃべりなお母ちゃんが一方的に話をした一小節に、このホテルの名前があったことを今、思い出し、心配しているだろうと、あわてて電話をしてきたのだ。
会長さんは若いころ、亡くなった奥さんと2人で小さな会社を設立して、一生懸命、仕事一筋に生きてきたそうです。
おかげで会社は大きくなり、一緒に仕事をこなしてきた2人の息子さんも経営学を身につけ、一人前になったことから会社を引き継がせ、会長さんは会社を引退し、伊豆高原の別荘で独り暮らしを始めたのです。
今まで忙しくて出来なかった庭いじりや、読みたかった本を何冊も読み、好きなときに起きて、好きなときに寝る。掃除や洗濯も気が向いたときにやればいい。
おなかがすいたら、近所のレストランで食事をしたり出前をとったりすればいい。「世の中に、こんなに充実した過ごし方があったのか?」と思ったそうです。
ところが、別荘暮らしにもだいぶ慣れてきたころ、無性に寂しさを感じるようになり、その寂しさは、大きな孤独感となって会長さんに襲いかかったのです。
最初のうちは、休みのたびに息子さん夫婦やお孫さんも遊びに来て楽しかったようだけど、仕事や勉強が忙しいという理由で、だんだん来なくなってしまったのだ。
笑う相手もいない。話す相手もいない。
そんな寂しい日々を過ごしていた会長さんの前に、ラッキーボーイが現れました。
そう、それがジョン・ブレンド・太郎だったのです。
ゴミ箱をあさっているところを会長さんに見つかり、いったんは逃げて行ったそうだけど、「おいで、おいで」と呼んで、食べ物を置いてやったら喜んで食べていたそうです。
それからというもの、会長さんはそのわんこが来るのが楽しみで、お肉を焼いたりミルクを用意したりして待っていました。
東京から呼んだ大工さんに立派な犬小屋を作らせ、動物病院でワクチンと狂犬病の注射も、ブレンドの名前で受けさせたそうです。
「若いころの俺はこうだったんだ」とか、「ばーさんが生きていたら、こんなに寂しくなかったのに」とか、ジョン・ブレンド・太郎には、なんでも話しかけながらお酒を飲んでいたそうです。
今まで、会社や家庭で強い人と言われていた会長さんも、人前では見せられなかった涙を犬前では見せることが出来たんだって。
そして、いつの間にか、この聞き上手のジョン・ブレンド・太郎君と離れることが出来なくなってしまったそうなんです。
横浜に引っ越したのは、日に日に元気がなくなってきている会長さんを心配して、急遽、息子さんが迎えに来たということなのですが、ジョン・ブレンド・太郎君と楽しく過ごしている会長さんの姿を見て、ぜひ一緒にと連れて行ったそうなんです。
会長さんが、横浜の息子さんと一緒に暮らすことを嫌がっていたのは、息子さんのお嫁さんと仲があまり良くなかったからだったけど、ジョン・ブレンド・太郎君のおかげで、にぎやかな楽しい家庭になったと喜んでいました。
頑固で厳しい会長さんも、口うるさくなくなったんだよね。きっと……。
息子さんもお嫁さんもお孫さんも、「わんこ一匹で、こんなに楽しくなるのなら、もっと早く飼えば良かったね」と言っているそうです。
そんなわけで、ジョン・ブレンド・太郎君も会長さんの家族もみ〜んな幸せになり、めでたし、めでたしのお話でした。(おわり)
次回から、わんこ愛情物語第2部「ゆうれい犬さんのお願い」です。お楽しみに。 |
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| 次回の更新につづく! バックナンバーはこちらです。 |
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大川 愛子さん |
| 栃木県出身。生まれたときから大勢のわんことにゃんこに囲まれて、とびきり明るく育つ。1999年に伊豆高原に、優しい夫とわがままをなんでも聞いてくれる姑、そして家族のような動物大好きスタッフ15名と一緒に、ペット同伴専用のプチホテル・サンロードをオープン。 |
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